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泣き虫てんぐの3倍パンチ

誰のことも傷つけない透明人間になりたい

あるキジの話


鬼に人間達の住む城下町の様子を伝える、

それが私の仕事です

特に対価は貰っていませんが

仕事しないと食べられるので続けてます

別に食べられて死んでも構いません

だけどその仕事が特に嫌いでもないので

そうやって何となく生きています

優しい鬼は話しかけてくれたりします

今日は少しお酒をくれました

酔っぱらってふわふわしながら帰っていると

歩いている人間とイヌとサルが視界に入りました

 

いつもならどうでもいいことなんですが

少し酔っているせいか、無性にそれが気になりました

イヌはともかく、サルはあまり人間と仲良くありません

なのにみんな楽しそう

どうせ時間ならある

少しついて飛んでみることにしました

 

たまに何かを言って笑いあったり、

真剣な顔で打ち合わせを行っていたり

詳しい状況はよく分かりませんでしたが

彼らが向かっているその先が

鬼が島であることはすぐに理解できました

 

鬼への復讐か財宝の略奪か

止める気はありません

最近私の仲間がよく人間に殺されています

鍋にして食べるのが流行りなのだとか

同じように鍋にされて食われればいいんだ

 

ぼーっとそんなことを考えているうちに

彼らが私を呼んでいることに気が付きました

最初は無視しようかとも思いましたが

酔っているせいでしょう、

素直に下へ降りました

 

だんごをやるからついてこい。

人間はそう言いました

耳を疑いました

ただのバカかなと思いました

でも彼らはまっすぐに私を見て

だんごをやるから一緒に行こう。

と、もう一度言いました

 

鬼には勝てないよ。と教えました

大丈夫。人間は答えました

私には何もできないよ。

それでもいい。人間は笑いました

怖くなったらいつだって逃げていい。

君にも一緒に来て欲しい。

そう言って彼はだんごをくれました


本当に自分でも何故ついて行ったのか

未だにそれは分かりません

だんごもあまり美味しくはありませんでした

 

人間とイヌとサルと一緒にいるところなんて

誰かに見られたらどうしよう…

そうやってびくびくしながらお供をしました

家族なんていないし、親友もいません

だから誰にどう思われたって

別にそんなの構わないのだけれど、

だけどやっぱり顔を伏せるようにして

彼らの後を空から少し離れて追いました

 

三日目の夜、寝る前に人間が少し離れた隙に

イヌとサルが些細なことで喧嘩を始めました

やっぱりあまり仲は良くないようです

 

人間が戻ったので、何気なく聞いてみました

何故私を誘ったのか?と

ほんとはね、誰でもよかったんだ。

彼は答えました

怖くてさ、今にも逃げ出してしまいそうでさ、

そんな時に君を見付けたから

気が付いたらすがるように誘ってたんだ。

そして、ごめんね。と

しかもだんごだしね。って彼は笑いました

こいつまじかよ…。って思いましたが

不思議と不快ではありませんでした

 

鬼が島に着いてからは

もう何がなんだかあまり覚えていません

とにかく一生懸命逃げました

空にいたって全然平気ではありませんでした

金棒とかばんばん投げてくるし、

ジャンプとか超すごいし、

とにかく逃げて逃げて逃げまわって

たまに弱そうな鬼の顔をつついたりしてました

イヌとサルがどうしていたかは知りません

 

息も出来ないくらい必死でした

あっという間だった気もするし、

途方もない時間怖かった気もするし、

だけど私達は勝ちました


今になって思うと

特に失うものを持っていない者と

死ぬことに怯えた者の

それだけの差だったような、

そんな気がしています

 

おかしな話ですが、私はその時初めて

死ぬことを回避するために生きました

死にたくないとかじゃなくて

生きるために生きた気がします

その時の感情をうまく表現できる

ボキャブラリーがなくてごめんなさい

だけど、そうでした

 

逃げようと思えば逃げられたと思います

でもとにかくあまりにも必死で

逃げ場所まで頭が回らなくて生き抜いた

そんな感じでした

そして、顔が真っ赤になってることが

自分でも分かるくらい、

とにかく興奮していました

 

帰り道の途中のこと、

口と首に轡を付けられたボス鬼の頭の上から

人間は私に、

これからどうすんの?って聞きました

 

ボス鬼は財宝を引いて、人間を頭に乗せて

泣きながら歩き続けています

残酷なことをするんだなって思ったけど、

負けた瞬間から、鬼は悪になりました

 

分からないけど、あなたたちとは行かない。

私はそう答えました

だろうねー。って人間は笑いました

イヌとサルは、俺の方がたくさん殺っただなんだと

やっぱり喧嘩ばかりしていました。

 

それからその人間は「勝ち組」になったそうです

莫大な富を得て、たくさんの人を従えたと聞きます

根性論を説いた本はベストセラーになったのだとか

 

イヌは人間達と親しい関係になりました

サルもそうみたいです

人間に近い生物だという認知を得て

多少の悪さは仕方ないとまで言われているみたい

むしろ、頭がいい動物なのだ、と

 

私はというと、鬼もいなくなってしまったし

仕事も失った訳で、特に何をするでもなく

いよいよ本当の独りになりました

 

別にさみしくもないし後悔もしてません

もともと独りでした

だけど誰かと話したり、

興奮したりした経験から

私には明確に自我が芽生えました

 

自我は時にやっかいです

ある夜、急に私を飲み込んだりします

そんな時はおっきな声で泣きます

また鳴いてるよ。って馬鹿にされますが

そんなの気にせずに泣くことにしました

私が泣くことでしか、私の自我を救えないなら

もうそれでいいや。って、そう思っています

 

何が言いたかったのか、

よく分からなくなってきました

急に昔のことを思い出してしまったのは

人間達と出会ったあの日以来、

久しぶりにお酒を飲んだせいかもしれません

 

思い出話は、この辺で

今夜はわりと気分がいいので泣いてません

風も気持ちがいいしね、もうすぐ春だ

 

おわり

 

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