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泣き虫てんぐの3倍パンチ

誰のことも傷つけない透明人間になりたい

ガラスの靴

 

ガラスの靴を履いてきたこと

それを片方だけ残してきたこと

それはもう成功確率5%くらいの

藁にもすがるような賭けだった。

 

そもそもガラスの靴での舞踏会、

ダンスは得意ではあったけど

そんな靴で踊るだなんて困難だ。

最中に破損する可能性もある。

踊るために作られたものではない。

 

しかしそれをやり遂げないと

私に未来を掴むチャンスは

多分もう二度と来ない。

失敗は許されない。

 

でも思いの外、

踊ってる最中はすごく楽しかった。

王子もそこそこイケメンだったし

何より息が合うというか

相性については踊れば分かる。

私が思っている以上に

彼はもっとそう思っていただろう。

ついでに胸もぐりぐり押し付けてやったし

練習した上目遣いも決まってたし

多分120点くらいの大成功だったと言える。

 

実際に踊ってる間もずっと

「今夜どう?」なんて誘ってきてたし。

その時点である程度成功はみえていた。

だけど今夜抱かれるわけにはいかない。

下着なんて上下ちぐはぐでボロボロだし、

何よりまず先に結婚してしまわないと

遊ばれて終わりになる可能性が高い。

身体じゃなくて、心に私を刻むんだ。

 

そして一番の難題、

片方の靴を残してくる作業。

これについては若干計画が狂った。

会場内に残してくるつもりが

靴がフィットしすぎてて脱げなかった。

さすがに焦った。

 

作戦を変更して全力で走った。

そして王子をまいて両手を使って

力任せに片方を剥ぎ取るように脱いだ。

城の階段中央あたりにそれをセットして

私はその少し下で待った。

 

王子着。

私はそれからまた走って階段を下りながら

ガラスの靴に視線を送った。

月光に反射して綺麗。

そのまま視線を流すように王子へ。

王子が確実に靴に気付いたことを確認し

そのまま城を後にした。

 

城の外に隠しておいたビニール袋から

スニーカーを取りだして履き替え、

もう一度城を見上げた。

もうすぐこの城が私のものになる。

 

残してきたガラスの靴は

baccaratの限定でシリアルナンバー入り。

余程のバカじゃなければ

まずは店舗に連絡するだろう。

顧客データからうちの住所が分かる筈。

 

父が生きていてまだ幸せだった頃

お店の中で駄々こねまくって

勉強がんばることを約束に買って貰った。

幼かった私には価格なんて分かんないし

ただただ綺麗だったから買って貰った。

それが形見となった訳だけど、

それをまさか一世一代の賭けに

使ってしまう日がくるなんて。

ごめんなさい、パパ。

 

もしこのミッションに失敗しても

私はあの家をでるつもりでいる。

もう片方の靴を売って

それを目下の生活費にあてて

バイトでもしながら生きていこう。

夜の仕事でもいい。

あの母親や姉達といることを思えば

多分なんだってやれるはず。

 

月光に照らされた夜道を歩きながら

前に絵本でよんだ「魔法使い」のことが

急に頭をよぎった。

私にも魔法が使えたら

こんな苦労しなくて済むのに…

なんて考えたら少しおかしくなって

色々ばからしくなってきて

何故だか少し泣けてきた。

 

とりあえずうまくいきますように。

階段に置いてきたガラスの靴、

綺麗だったな。

 

 

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